ひとひろ

日常より、もう少し深いところへ。ひびのこと、たびのこと、ならのことを綴ります。

ひとひろ

*フレグラント・フラグメント

朝、目が覚めて、思わず身震いをした。
身支度をして外に出れば、そこらじゅうがしとどに濡れている。
若草山を振りあおげば、神々しく朝靄にけぶっていて。

この、空気感が好きだ。
眠い目こする出勤時も、疲れてへとへとの帰宅時も。
自分が奈良にいるのだと思うと、ほっとする。
こうして少しずつ私のホームになっていっているのが、嬉しくてならない。

私の実家は、なんてことのない住宅街にある。
最近では古い家がどんどん取り壊されていて、帰るたびに記憶の中の風景と、どこかが少しだけ変わっている。
でも、そこに以前何があったのかを、すぐに思い出せない自分がいた。
小さなざわつきが、胸の内に残る。
この現象に誰か名前をつけてほしい。
幼い頃からずっと思っている。

それでも、季節の気配はどこにいてもだいたい同じで。
鼻先をかすめる香りに、秋を感じずにはいられない。
記憶と同じ場所でほのかに香るあまい香にも、私のホームを感じる。
この、空気感も好きだ。
季節は移ろい、月日は流れるけれども。
変わらないものもきっとあるのだろう。

私のふたつのふるさとは、同じ花の香で満ちている。
金色の雨はあまく、少し切なく、私に秋を教えてくれる。
今年も、金木犀の季節がやってきたようだ。

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(ホームではない場所も、美しい秋の気配をたたえていた)

ゆのじ