今年の春はずいぶん早く、桜の花が咲きました。
けれども都会に通勤する私が桜の姿を見かけるのは、奈良の通勤ルートのごくわずかなシーンです。
「ああ、咲いているなあ」
車窓からも桜は少し見えるはずなのに、ココロをなくして、うつむいて携帯を眺めていたばかりでした。
よく晴れた日の話
大きな声ではいえない、ここだけの話。
どうしてもどう頑張っても起き上がれない日がありました。
罪悪感とともに得た、ぽっかりとしたいちにち。
ココロの中にはいろんな声がこだましていました。
でもそんな昼下がり、あまりにも窓の外がうららかだから、私は立ち上がりました。
ふらふらと何かに誘われるように、しばらく乗っていなかった自転車のサドルにまたがって。
そうして、あてどなく走り出したのです。
佐保川という川があります。
桜が美しいのは知っていたのですが、ここまで満開のときに目の当たりにするのは初めてでした。
長い長い、桜のトンネル。
小さい子も、おじいちゃんおばあちゃんも、みんなが足をとめてその美しい光景に見入っていました。
突き抜けるような青い空、ほのかに染まった花びら。
どこまで行っても続く夢のような景色に、思わず肩の力が抜けました。
俯いていたら、見えるものだって見えなくなってしまうや。
願わくは花のもとにて
結局その日は、ちょっとした冒険をして帰りました。
白い月に向かってペダルをこいで。
後ろ髪を引かれるように、何度も何度も振り返りました。
ぽっかりとまあるい月も、グラデーションに染まる空の美しさも、きっと忘れないと思います。
佐保の桜に、少しだけ背中を押されながら、私は家路についたのでした。
「願わくは花のもとにて」と古にうたったひとがいます。
その気持ちはとても分かる。
でも、私はもっと、何回でも、見てみたいよ。
負けそうでくじけてて、悔しくて。
弱虫で隙間だらけのココロに、花が咲きました。
花にすくわれた、初めての奈良の春の思い出。
また、来年も逢いたいな。
読んでいただき、ありがとうございました。
ゆのじ
今週のお題「お花見」